ミックスボイスの知識とその習得法とは




ヴォイストレーニングに取り組む方の多くが、「ミックスボイス」の獲得を1つの目標にしていると思います。
ボイトレに励んでいれば必ず聞く名前ですが、ミックスボイスとは具体的に何なのか説明できる方は少ないのではないでしょうか。

ミックスボイスとは一体何なのか、どうすれば正しく発声できるようになるのか、疑問に思っていませんか。

この記事では、
・「ミックスボイスとは何か」についての正しい知識
・正しいミックスボイスの状態とは
・ミックスボイスを獲得するための練習法とチェックポイント
を解説していきます。

【知識】ミックスボイスとは何か

ミックスボイスについて知る為の「声区」の話

ミックスボイスについて知る為にはまず前提として、「声区」について知る必要があります。
声にはいくつかの種類があり、それを声区と呼びます。
胸声(地声)ファルセット(裏声)があり、ほかにホイッスルボイス、ボーカルフライなどの(地声や裏声という領域を一般の声区とするのであれば)特殊な声区がいくつか存在します。

「ベルカント唱法」コーネリウス・L. リードや、「うたうこと」フレデリック・フースラーなどの有力なヴォイストレーナーはそろって

声区は
・胸声
・ファルセット
の2つのみであり、他の解釈はいらない

との立場をとっており、当サイトもこれに倣います。

正しいミックスボイスの状態とは

ミックスボイスとは、胸声とファルセットの2つの声区を融合させた状態の声のことです。
このミックスボイスでは、声帯が低音から高音までスムーズにコネクトされて振動し、その振動が途切れたり裏返ったりしません。

この胸声とファルセットの2つの発声メカニズムを発達させ、統合させていくこと。
歌手の偉大なアートは、一方の声区からもう一方の声区へ、聞き取られることなく移行することができる能力の習得でもって成り立っている。

コーネリウス・L. リード著「ベルカント唱法」より引用

つまりミックスボイスを習得することはブリッジを克服することで声区を融合させていくことともいえます。

参考記事:歌手が克服すべきブリッジの知識

高いF以上の音には、どんなに地声に聞こえるサウンドでも、裏声の筋肉がかなり作用しています。
つまりF以上の音は地声に聞こえる音も裏声に聞こえる音もすべてミックスボイスともいえます。

地声と裏声の比率が違うだけで、すべてミックスボイスです。
「このサウンドがミックスボイス」という限られた種類の声は存在しません。

声区が融合され、ブリッジが聞き取れないレベルになってきた状態のミックスボイスは、声帯振動がスムーズに接続され、ブリッジ近辺の発声がしやすくなるというだけでなく、喉の発声機能を回復させる力を持っています。

つまり、正しいミックスボイスが良好なバランスで発声されていれば、歌えば歌うほど声が自由自在になっていくということです。

よくあるミックスボイスと声区の誤った解釈

この声区の解釈については
地声、裏声、ミドルボイスの3つだ、という解釈もあります。

しかし、このような解釈のもとで行われているボイストレーニングに苦戦している方が後を絶ちません
良好なバランスで発声され、歌えば歌うほど声が自由自在になっていく状態とは程遠いものです。

「胸声、ファルセットにミドルボイス(ミックスボイス)を加えた3つの声区が存在する」という解釈がシンガーに悪影響である理由を説明します。

それは「この声の混ぜ方がミックスボイス」と決めつけて特定のバランスでのミックスボイスを発声することを目的とすると、発声が不自然にで人為的なものとなり、結果的にさまざまな曲を歌う上で制約になってしまうからです。

声区は、胸声と、ファルセットのみです。
この2つの声区が融合するあらゆる声がミックスボイスです。

ミックスボイスを練習する目的は「声帯が低音部から高音部まで裏返ったり途切れたりせずにスムーズに接続され振動している状態」にすることです。
「ミックスボイス」という第3の声を出す為ではありません。

低音部と高音部を、ギアチェンジせずにシンプルにつなげていくために知識を学び、エクササイズをするのです。
なのにわざわざもう一つギアを増やしてしまうとさらにノッキングを起こし、声帯はつながっていかなくなります。

そして2つの声区がどのようなバランスで融合するかは、その曲に求められるスタイルやムードによって変わります
そのバランスが幅広くコントロールできる芯のない”不自然な”ミックスボイスでは、その表現の幅に対応できません

痩せたミックスボイスだけをミックスボイスと決めつけて習得したシンガーは、クラシックのムードの曲をダイナミックに歌えません。

逆に重いミックスボイスしかできないシンガーはポップスを楽曲に適したスタイルでパフォーマンスできません。

そしてこのような状態のシンガーのミックスボイスでは声は自由自在にはならず、むしろ歌えば歌うほど疲労して不自由になっていくでしょう。

発声することで喉の機能が回復するのか、疲労して不自由になるのかがミックスボイスの状態の是非を確認する良い基準となるでしょう。

したがって、3つ目の声区「ミックスボイス」は人為的に決めてかかってはいけないのです。
胸声とファルセットの2つの声区を楽器として適切に統合することに集中しましょう。

自分の声帯・人体という自然を根拠に判断しましょう。
歌えば歌うほど自由自在になる発声を探していくということです。

声帯が楽器として低音部から高音部まで裏返ったり途切れたりせずにスムーズに接続され振動している状態であるかどうかということです。

ミックスボイスを獲得するための練習法アイデアとチェックポイント

声帯が低音から高音までスムーズにつながって振動し、歌えば歌うほど楽器としての声が機能回復していく理想的なミックスボイスを身に付けるために用いられるエクササイズを紹介します。

レジストレーションでパッサージョの裂け目を小さくしていく

このエクササイズは、ファルセット音域から胸声区へとオクターブをポルタメント(弧を描くようにつないで歌う)することで声区をスムーズに移行する練習です。
この2つの行き来でブレイク(ひっくり返る、途切れる等)がなくなるまで丁寧につないでいきます。
音質に共通した特徴を持たせてつなげていくことで、声区を接近していきます。

ファルセットの作用を胸声区へ拡張していくことになるので、低い音域においてファルセットの力が強くなります。

男性
F4→F3
G4→G3
A4→A3
B4→B3
前後

女性
B5→B4
C6→C5
D6→D5
E♭6→E♭5
前後

がこのエクササイズに適した音域となります。

ブレイクを突破した後も胸声は作用するが、それ以上に関与の度合いを増すことは断じて許されない。ブレイクよりも上に声が上がっていく場合胸声を差し控え、ファルセットとヴォーチェ・ディ・フィンテの機能を急激に増加させる。

「ベルカント唱法」(コーネリウス・L. リード著)より引用

※ヴォーチェ・ディ・フィンテとはベルカント唱法で用いる、ざっくり「真のミックスボイス」の意。

このように、初心者のうちに胸声からスタートして声を高音に向かって張り上げていくとかなり高い確率でミックスボイス習得とは違うベクトルに進んでしまいます(いわゆるプリングチェストの状態)。

裏声を胸声の中で作用させるように混ぜていくという順番の方がアプローチの考え方として適切でしょう。

メッサディヴォーチェ

メッサディヴォーチェは、ミックスボイスを習得するために最も有効とされている訓練の一つです。
声をピアノからフォルテに向かって(弱く出す声から強く出す声へ)膨らませて声区を結合させていく訓練です。
この訓練に適しているのはC5~F5くらいの、いわゆるブリッジの区域でやることが基本です。

この弱い声区(多くの場合は裏声の低音部です)をだんだん強く膨らませていき、もう一方の声区と同質まで育てて声の裂け目がなくなった時に裏声が強くなり、地声が柔らかく楽になり、声が融合されていきます。

トレーニングされていないシンガーはこの音域で

・地声→高く感じ硬くなる
・裏声→低く感じ弱くなる

という状態で発声しにくいと思われます。

優れたシンガーはこの音域の扱いが非常にスムーズで巧みです。
地声裏声という感覚がなく、声帯が自然に接続しギアの切り替えがない発声になっています。

メッサディヴォーチェによって、この2つの声区の問題を解決し、声帯振動をコネクトしていきます。

ブリッジ音域で、

1.小さく裏声を出す
2.だんだん裏声を強く膨らませていき、地声へとスライドさせる
3.地声を膨らませ地声でフォルテ(強く)で出す
4.今度は来た道を逆に、地声から裏声にスライドさせていく
5.裏声に帰ってくる

というエクササイズです。
母音は多くの場合「ア」や「エ」などの開口母音での訓練が好ましいとされています。
難しい場合裏声部は「ウ」の方が出しやすいことも多々あります。
試してみてください。

このメッサディヴォーチェは一朝一夕にできるようになるものではありません。
すぐに出来ないからと言って自分にはミックスボイスは出せないと悲観的になる必要は全くありません。
プロでもブリッジの問題に悩む歌手はたくさんいます。
焦らず着実に有効なアプローチを積み重ねていきましょう。

声を自由自在にしていくには、継続した訓練と忍耐力が必要です。

エクササイズのチェックポイント

・ブレイクにおけるすべての音に対して、ファルセットが支配的な要素であり、胸声と同等に際立つまで鍛え上げられなければならない。両声区のギャップは、胸声の音量を増やすことはなくファルセットの力を増すことで狭めること。

・胸声はブレイクより上には決して押し上げてはならない。ファルセットの拡張は促進されるべきであり、胸声区の下の方へ下げていかなければならない。

・メッサ・ディ・ヴォーチェはブレイクに隣接した2半音から3半音に限り適している。中央Cの上のFが、胸声練習の最高音でありそれより上はどんなにフォルティッシモにしてもファルセットかヴォーチェ・ディ・フィンテ(ほぼミックスボイスと同義)に属する。

コーネリウス・L. リード著「ベルカント唱法」より引用

ということを常に念頭においてエクササイズに取り組みましょう。

ロックや現代ミュージカルなど、高音部で強い地声を要求されるジャンルのシンガーも、心配しなくて大丈夫です。
エクササイズで通り道を掴み、声帯がギアチェンジせずつながってくれば、その中で地声と裏声のバランスを変えたり、ベルティングして高音部を地声で発声できます。

むしろ、この通り道なしに地声を張り上げて疲れたり、喉を壊したからこそ、あなたはミックスボイスについて本気で学んでいるのではないでしょうか。

また、この胸声を押し上げず裏声の低音部を強化することのほかに

口や舌、喉を発声に関与させないことも非常に重要です。
声をつなげる際に、口や舌、喉を動かすことはエクササイズの妨げとなります。
これらを制御し、声帯の振動と閉鎖に集中することで声は正しくブレンドされていきます。

また音の立ち上がり(ファーストノート=最初の音)の母音・ピッチ・強さが明瞭にすばやく行うことも重要です。
声をずり上げたり、まっすぐな発声から逃げていないかは常に確認しましょう。

そして最も重要なことはすぐに出来ないからと言って投げ出さないことです。
やってみてすぐに出来ないからと言ってあなたに才能がないわけではありません。

大事なのは日々自分の声について知り、成長していくという覚悟を持つことです。




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